4.愛の呪い

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むすっとしたほっぺたに、ちょんと唇を当てておく。くすくすと笑いながら、冬真の肩を掴んでソファに押し倒した。そのまま前髪をかき上げてやって、賢くない額を剥き出しにしてやる。何をするんだと余計不機嫌そうな唇に、自分の唇を寄せる。そして、まだ何やらぶつぶつと文句ばっかり言っている相手に、笑いながらふざけているとしか思えないキスをして、そして、暗転。 あなたが選んだ子だったら、どんな子だって、しょうがないわよねぇ。 その言葉はその実、あのいとも簡単な条件で認められるはずもなく、まともな女を連れて来なければ決して許さないと、追い詰めにかかってきている気がする。 幼かった自分が、いつまでもそんな言葉を覚えているわけもないだろうと言った、さほど意味もない、母親のただの感傷的な言葉だったのかもしれない。何より、言った本人自身ががそんなものをとっくに忘れているかもしれない。 それでも、その言葉はまるで愛に満ち満ちた呪いのように、宗司の心の奥底でひっそりととぐろを巻き続けている。 振り切れるだけの強さがあるわけでも、自信があるわけでもない。たぶん自分はその呪いを軸にこれまで恋人を選んできたし、これから先、人生の伴侶を選ぼうとするだろう。それなのに。それなのに、だ。     
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