79.バースデープレゼント(最終話)

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でもそこにあるのはただ、痛々しくて可哀想になる程、可能性を断ちたくないと縋るように望む宗司の気持ちだ。まるで細い糸に縋るような、そんな宗司の気持ちだ。 全部わかっていて、でもそんな事は、自分にだって言えなかった。 だって宗司ができないって言っているのは、ずっと先の未来まで二人で生きるとか、そういう事だ。夫婦とか家族みたいに。一生にわたってお互いを唯一の存在にする事だ。それができないから離れようと言っているのだ。 今引き止めてそばにいろよって言うのは、今までみたいにただそばにいるという事じゃない。宗司ができないと言うそれをしようってプロポーズするのと同じ事だ。宗司のぜんぶを引き受けるって事だ。 「僕にはね、宗司くんのきらきらした人生を台無しにする勇気も、いつかもし宗司くんが僕を選んだ事を後悔した時に、僕のせいだって受け止める勇気もないんだ」 潤んだままの薄茶色の瞳はただじっとこちらを見つめてくる。 「僕ができないのもね、宗司くんのためじゃない。僕のためでしかない」 他人から何を言われようがべつに構わなかった。他人からどんな目で見られようが、そんな事は自分の中ではそれほど大した問題ではなかった。     
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