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「どうしたっていうんだよ。嘘だろ?まじかよ。何なのこれ。いくつだよお前。いい歳した男が大泣きしながら帰ってきたわけ?通行人も引いてただろ。通報されても文句言えないぞ。一体どうなってるんだよ」
心配そうな困惑しきった様子の夏樹に、まるで小さい弟にそうするみたいに、ぽんと頭に手を置かれて、途端に心が緩んだのが自分でわかった。
ずっとずっと飲み込んでいたものが、堰を切って溢れ出す。
「…結婚なんか、しないでよ」
「ええ?なに?結婚?俺?なんの話だよ」
夏樹が呆気に取られたような声を出す。でも止められなかった。
「結婚なんかしないで。誰ともそんなこと、しないでよ。誰のものにもならないで。このままでいいじゃん。今のままでいいじゃん。何も変わらないで。何がいけないの?どうして駄目なの?どうしてこのままじゃいけないの?ずっとずっと、この先もずっと、ただ今までみたいに」
「何?何なんだよ急に」
それが本心だった。
今のまま、今までと何も変わらずに過ごしたかった。
けれど宗司はずっと何も変わらないでいるなんてできないと言うのだ。
だから変わらないではいられないと言うのなら、それなら。
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