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「…遠くに行かないで。お願い、そばにいたい。そばにいたいんだ。何もできなくていいんだよ。それでいいんだよ。僕、何かしてほしいなんて思ってないよ。そんなの思ってないよ。これ以上どうにかなりたいなんて思ってない。そんなの僕にだってできないよ。でも言って。そばにいてもいいよって言って。それだけでいい。変わらなきゃいけないなら変わってもいい。結婚するんならしたっていいよ。誰かのものになってもいいよ。そうやって一人で変わればいいよ。自分の事だけ守ってればいいよ。それでいい。だからそれだけでいいから、お願い、お願いだから……」
そばにいてもいいよって言って。
ただそんな風に言ってもらいたかった。
冬真のために何かできる事はないかと宗司に尋ねられた時、言いかけてやめたのはこの言葉を求める事だった。
この先もずっとそばにいたかった。
あの薄茶色の瞳に見ていてもらいたかった。
けれど、自分が宗司のこれからの人生ぜんぶを負うなんて事ができるわけなかった。宗司の後悔が怖かった。
そして、宗司に自分のぜんぶを負ってもらいたいなんて思っていなかった。そんな事は何も望んでいなかった。
今までみたいに、ただそばにいたかっただけだ。
そばにいろよなんて言えなかった。
そばにいてよなんて言ってもらわなくて構わなかった。
そばにいてもいいよって、ただそう言ってくれたらよかった。
そのひとことさえくれたら、宗司がいつか左手の薬指に指輪をつけたとしたって、自分ならずっとそばにいられたのに。
二人とも覚悟なんてできないのなら、そして宗司が変わらずにはいられないのなら、変わってもいいから、お互い何も負わないまま、どちらのせいでもないまま、ただ自分がそばにいたくてそばにいる事を許してもらいたかった。そばにいられるならもう何でもよかった。
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