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でもきっと冬真に対して誠実でありたいと思い続けていた宗司に、そんな事ができるはずもなかった。
言えなかった言葉たちは涙の中に全部溶けて、届かないままただ消えて行く。
「一体どうしたっていうんだよ、ほんとに。…そんなに寂しいの?俺が結婚するの」
すっかり勘違いした夏樹が困り果てたような声でそう言って、遠慮がちにぽんぽんと頭を撫でてくる。
だから冬真は夏樹にしがみついて、そのまま声を上げて泣いた。
*
「あーよかった!晴れて。毎日雨ばっかりだったから、お母さん心配してたのよ~」
黒い留袖を着ている母親がそう言って、控室の窓から外を見ている。
「きっと日頃の行いが良いのね、あの二人」
六月のある週末。
昨日まで連日降り続いていた雨が嘘のように、すっきりと明るい青空が広がっている。梅雨の晴れ間というやつだ。
その運良く晴れた今日、これから始まるのは夏樹の結婚式だ。
冬真は母親と秋斗と雑談しながら、新郎側の親族用として用意された控室で式の開始を待っている。
「ジューンブライドとかロマンチックなのはいいけどさあ、ここんとこ毎日、天気予報見ながらやきもきしたのはこっちだよね」
冬真がそう言うと、式場のスタッフから出された桜茶を飲んでいた秋斗が隣で笑った。
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