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「なんだかんだ言っていちばん心配してたの、冬真くんだもんね。喧嘩ばっかりするわりに、夏樹兄さんの事大好きだよね」
「…いやべつに、兄貴はどうでもいいんだよ。でも女の人はさ、やっぱり結婚式とか思い入れがあるんだろうし、雨だったら可哀想じゃん」
奥さんが、とあくまでもそれを強調して冬真が答えたところで、今日の主役である夏樹が入口のドアからひょいっと顔を覗かせた。
「おー、みんなお疲れー。今日はありがとう」
そう言いながら入ってきた夏樹はシックなシルバーグレーのタキシードに着替えている。細身でスタイルのいい夏樹にはよく似合っていた。
「あらいいじゃない、我が息子ながら惚れ惚れしちゃうわ」
その姿を見た母親が嬉しそうに言って、秋斗もうんうんと頷く。
「すごく似合ってるよ。夏樹兄さんってなんとなく着物が似合うのかなって思ってたけど、タキシードもいいね」
「お色直しで和装も着るよ」
「そっか、そうなんだ」
「きっと素敵よ、二人とも。ふふ、お母さんね、楽しみにしてるのよ~」
三人が和やかに笑い合うところに、冬真も横から口を挟む。
「ほんと、いいじゃん。馬子にも衣装ってやつ?きっと誰が着ても男前に見えるよね、その衣装。奥さんチョイス?さすがだね」
そう言うと夏樹は穏やかな笑顔から一変、心底鬱陶しそうに顔をしかめた。
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