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「…お前こそ馬子にも衣装だな。礼服着てたらそれなりに見えるよ。まあ滲み出るコスプレ感は拭い切れないけど」
「なんでだよ」
「着慣れてないからだろ、スーツとか。いい加減スーツ着て面接の一つでも受けてきたらどうなんだよ」
夏樹のせりふに、今度は冬真が思いっきり顔をしかめた。
「はあ?なんでこんなとこまで来てそんな事言われなきゃなんないんだよ。御祝儀返せ」
そう言うと夏樹はきょとんとする。
「え?あれほんとに冬真が用意したの?袋はともかく、中身はてっきり母さんだと思ってた」
本気で言っているのか知らないが、夏樹は真顔でそんな事を言う。
「違うよ。そんなわけないだろ。いくらなんでもこの歳になって、さすがの僕でもそんな事できないよ。なけなしの財産から出したんだよ。結構な出費だよ。まったく、三組にひと組は離婚する時代らしいのにさぁ、大丈夫なわけ?兄貴みたいにすぐ嫌味ばっかり言うようなやつ。もし兄貴があんたなんかもういらないって奥さんから返却されたら、あの御祝儀も速やかに返却してもらうからな」
「…おまえ、三組にひと組はとかでかい声で言うなよ。ここ式場だぞ。向こうの親族の前では絶対に言うなよ」
夏樹は声のボリュームを落として睨みつけてくる。
「言うかよ。わきまえてるよさすがに、そのくらい」
「ほんとかよ…」
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