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はあー、と夏樹が深いため息をついて、ぐるりと控室を見渡す。
「父さんと、春輔兄さん一家は?」
「時間まで散歩してくるって。小春ちゃんがここで待ってるの飽きちゃったみたい」
「そっか。じゃあ俺これから写真の撮影とかあるから、また後で式の時に」
そう言って夏樹は冬真たちの元を離れ、来てくれている親戚たちに軽く挨拶してから部屋を出て行った。
六月の今日、この日。
それは宗司の誕生日でもあった。
あの日を最後に宗司とは一度も会っていない。
引越し先の住所はもちろん知らない。
連絡先もあの後すぐに変えてしまった。
それでも本当は一度だけ、無断で借りた秋斗の電話から宗司の番号に掛けてみた。
意味も理由もない。ただの衝動でそんな事をしてしまった。もし出たらすぐに切るつもりで。
聞こえてきたのは、番号が使われていないという機械のアナウンスだった。向こうも同じように連絡先を変えてしまったようだった。
きっと揺らぎたくなかったのだと思う。自分と同じで。
カフェのバイトは先月辞めてしまった。店の中に立ち込めるコーヒーの香りが宗司を思い出させるのだ。はじまりの日みたいに、客としてふらりとやって来ないかな、なんてどこかで考えてしまうのも嫌だった。
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