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こちらに背中を向けて立っている夏樹が、ブロッコリーを自分の体の前で両手に構える。どれだけ飛ばす気でいるのか、軽く膝を曲げて勢いをつけようとしている様子だ。
おっしゃ来いー!とか言って前列で張り切るのは夏樹の友人たちだ。友情から、べつに欲しくもないブロッコリーに食らいつくふりをしてくれるつもりなのだろう。兄のためにわざわざすみませんねぇ、などと思いながら、冬真はやる気なく最後列で適当に立っている。友人だったら冬真だって張り切るかもしれないが、今日は兄弟だから、こういう演出はこんなテンションで構わないのだ。
「行くぞーっ」
夏樹がちらりと背後を振り返り、そこに並んだ男たちに向かって大きな声で合図をした。
そして、体の前で構えたブロッコリーを低い位置から後ろに向かって思いっきり投げ上げた。
前列のゲストたちが忙しない動作で宙を舞うブロッコリーに体を向ける。冬真もそのブロッコリーを目だけで追う。それは冬真の想像以上によく飛んだ。
「…嘘だろ……」
目前に飛んできたので思わず手を伸ばして受け取ってしまった。ほとんどただの反射だ。
誰の手にも届かないまま地面に落ちてしまいそうだったので、無意識のうちに体が動いたのだ。
今ブロッコリーは、呆然としている冬真の両手の中にちんまりと納まっている。
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