1843人が本棚に入れています
本棚に追加
「…それでは皆様、新郎新婦の末永い幸せを願って、せーの、どうぞー!」
司会者がそんな風に掛け声をかけて、それぞれが手に持っていた風船から手を離す。
色とりどりの風船が一斉に、青い空の中へと舞い上がっていく。
湧き起こる拍手と歓声の渦の中、冬真はひとり、その風船をまだ手に持ったままでいた。
兄貴には申し訳ないけど、と思う。
けれど、願うのは宗司の事だけだ。
今日はバースデーケーキと蝋燭は用意してやれないから、宗司の代わりに自分が願い事をしておいてやろうと思ったのだ。
あのやさしくて甘えん坊の寂しがり屋が、一人で泣いたりしていないか、ずっとずっと心配だった。
離れてからずっと心の中にあった願いを、声には出さずに今、宗司のためだけに唱える。
どうかどうか、笑っていてほしい。
宗司がうれしいって思うことが、たくさんたくさんあるといい。
いつまでも、誰よりも幸せでいてほしい。
その願いはかつて、冬真が宗司からもらった言葉そのままだ。
ひどく酔ってすっかり見境をなくした日、冬真の事をまるで宝物みたいに抱きしめながら。
冬真の寝たふりに気がつかなかった夜、自分が冬真にしたくてできなかった役割は神様に託すのだと言って、嗚咽を漏らしながら。
最初のコメントを投稿しよう!