46.四月の憂鬱

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仕事柄、しょっちゅう車に乗らなければならないのに、ペーパードライバーで運転に自信がないという後輩に高速の合流ができないと言われて、一緒に行った客先への道すがら、助手席でタイミングの練習に付き合った事もある。 そんな、仕事以前の事から教えていたのが、わずか一年ほど前の事なのだ。 その頃は彼らの表情に、不安や戸惑いや遠慮ばかりが見え隠れして、大丈夫なのかな、とこちらの方が戸惑ったくらいだ。自分が新人だった頃の事は、すっかり棚に上げて。 そんな頼りない彼らだったのが、たった一年の間にいつの間にかそれなりにひとり立ちして、ある程度の事ができるようになっている。 もともと彼らは、時々どこかの会社で実際にあった事として世間で新入社員に対して言われるような、非常識な立ち居振る舞いをするようなタイプではなかったし、頭の回転が良く、ひとつ言えば十を理解してくれるような優秀さではあった。 あっという間にいろいろな事をぐんぐん吸収して、それなりにいろいろな体験を積んで乗り越えて、最初の頃は成人式にしか見えなかったスーツ姿がすっかり板について、もう今では立派な社会人にしか見えない。 えらいもんだな、と宗司は思う。 たったの一年で、確実に表情が変わったような気がする。要するに学生気分が抜けたというような事なのかもしれないが、不思議なものだなと思う。     
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