第1章

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 小夜の失踪事件はあっさり3時間で解決し、小夜の正体も判明した。群馬出身の元女工で戦後はスーパーのレジ係のパートをずっと続けてた、読書好きの独居の人だった。鈴木しづ子は同い年で当時から憧れの人だったのだと、面会に来た法定後見の、補助人が教えてくれた。本来は個人情報保護の範囲の話だが、田舎では守秘義務もゆるゆるであり、もっとストレートに言えば施設に入居する老人のプライバシーなど全く守られていないのだった。そのせいで、鈴木小夜の、鈴木しづ子疑惑はあっという間にぬぐい去られた。  私も森下君も拍子抜けし、その日の午後はボケーと脱力してた。そのせいで、ミ婆のおむつは濡れてしまい、ズボンとベッドの防水ラバーシーツまで尿汚染させてしまった。 「まあ、当時の鈴木しづ子人気を知るよすがにはなりましたよね」  森下君は上手にまとめようとした。 「なんというか、ぼく、若いころ、長渕剛のライブを見に大阪城ホールに行ったらですね、ホールの前の広場にギターを持った歌うたい達がわらわらと場を占めて長渕の歌を弾き語ってて、エセ長渕の多さにエエ~!と驚いたもんすが、小夜婆も、当時の鈴木しづ子フリークだったんですよね」 「うん、そうだね」    私は、でも、小夜婆の俳句、すげえいいじゃんと思った。伝説の俳人じゃなかったけど、名もない誰も知らないところにも人物はいるよ、だよ。この仕事に就かなかったら、この発見はなかったろうなあと強く思った。明日も小夜を無理やり誘って、最っ高の句会をやろう。                    完  
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