小話:卯月堂の定休日は木曜日

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 今にも眠りそうな声でナオヤが振り向き、腕の主を見上げる。  コーヒーの芳ばしい香りが鼻をくすぐるのが心地良い。  目を細めるナオヤに、トシキが返事の代わりに目元を緩ませた。 「それ飲んだら、明日の仕入れに行くからね」  その言葉を聞くや、弾かれたように身を震わせ、目を大きく見開く。  眠気も吹っ飛ぶというものだ。 「え、マジか!? トシ君、代わり……に、じゃ、ない、です、よね」  熱いカップを受け取るナオヤの顔は凍り付き、声が徐々に小さくなる。  暖かな日だというのに、トシキの背後から凍てつく冬の気配を感じるのは気のせいだろうか。 「い、行か、行かせてイタダキマス」  店主はもうちょっと積極的に働いた方が良い。
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