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コウスケが裏庭に飛び出すと、クジラの群れは屋根のすぐ近くまで迫っていた。
ブフッと背中の鼻から潮を吹けば、上からばらばらと落ちてくる。
クジラ達が優雅に泳ぐ下には、卯月堂の面々の洗濯物が風になびいていた。
シャツにパンツに、体操着。
今朝は天気も良かったのでシーツも……。
それから、コウスケがシンプルに彩ったトートバッグ達も置かれていた。
週末、店の店頭に置くための商品だ。
それらの上に、小雨のようにばらばらばらと容赦ない。
「あー……」
為す術無くクジラ達の洗礼に合う商品に、コウスケは気の抜けた声を出した。
「クジラの鼻水がぁ……」
「中に入れるよ。この分だと、雨が来る」
洗濯物の前に立ち尽くすコウスケを横目に、トシキがテキパキと洗濯物を取り入れる。
ナオヤはシーツを引いて取り込み、丸めてカゴに入れていた。
唐突に強い風が吹き、先程までいい天気だったはずの空には黒い雲が姿を現し始めた。
「あの雲の色は灰色って言えるんだけどなぁ」
コウスケはぽつりと口にすると、トシキから手渡された洗濯物を抱えて店の中へと戻っていく。
「あ、クジラって幸運の証だから鼻水もラッキーと言えば、ラッキーかも……やったぁ」
クリエイターな弟の発言は、たまに兄達を戸惑わせる。
そんな彼の呟きを耳にして、長男と次男は不思議そうに顔を見合わせると、洗濯物を抱えて弟の後を追うのだった。
夕暮れ時、空を見上げてみてほしい。
夕焼けに染められる雲を、あなたは「何色」と呼ぶだろうか。
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