77人が本棚に入れています
本棚に追加
「お嬢さん、お嬢さん……?」
暗い世界の中で誰か、男の人の声が聞こえる。
痛む頭を振って、トウコはゆっくりと意識を浮上させた。
「あぁ、良かった。随分、唸されてたから」
見上げると端整な顔がそこにあった。
自分よりも年上の青年だが、どこか少年の影も残している、そんな印象だ。
柔らかく温かな電球の明かりに照らされた彼の顔は、ホッとした表情で微笑んでいる。
ここがカフェの片隅だと把握するまで、数秒も要さなかった。
テーブルの上には参考書とノート、筆記用具。
そして、邪険に遠くへ退かしてしまった白いコーヒーカップ。
中身は飲み干して空っぽだ。
そして、目の前に立つ青年は、先程顔を会わせたカフェの店員で。
最初のコメントを投稿しよう!