その者、人間ではない件

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ヒソヒソ―。 食堂にいる周りの人間の囁き声をBGMにしながら、パンとスープを食べる。そしてふと思う。 新しい服に着替えて、温かい食事を採る。そんな当たり前の事が出来ていることが今でも信じられない。 かつて生まれ育ったところでは、服はボロボロ、その日食べるものがあるかどうか、そんなギリギリの状態で暮らしていた。もっとも両親が死んでからの事で、生きているときはまだマシな生活をしていたが。 だがそれは、100回季節がめぐっての記憶。 そう年を重ねていれば普通の人間であればよくても枯れ木のような老婆か とうの昔にポックリ逝っているはずなのだ。だが、彼女の容姿はまだ20代半ばのような姿である。 「…バケモノめ」 ふと、聞こえた嘲りの言葉に遠い過去の記憶から離れ、ゆっくりとその言葉を放った人物に目を向ける。言ったのは中年の男のようで、目が合いそうになった途端に慌てたように食堂を立ち去った。それが合図だったように、まばらだった人気が、無くなりシンと静まり返り彼女一人だけになった。 さっきの男や周りの人間たちは彼女がまるで人間ではないことを知っているかのようだった。 シキ・ミネルバは確かに人間ではない。
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