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「どうして? 寒いんだろ? 俺は平気だから」 「……ありがとう」  既にジュリアンの方を見ていなかった皓は、無造作に向かいの通りを示した。 「桜。綺麗だな……って、それどころじゃないか」  ジュリアンが皓の視線の先を追うと、街灯に照らされたピンクの可愛い花の大群が、ふわふわと夜風に揺れていた。 「わっ……綺麗だね」 「春の日本の名物だ。日本人は、とにかくこの花が好きらしい」  まるで自分は日本人ではないというような皓の言い方がジュリアンには少し引っ掛かった。日本人のイメージとは少し違う外見やアメリカ人そのものの英語の発音からして、確かに違うのかもしれない。  また暫く黙ったまま、二人してピンクの花が風に揺られ柔らかな波が寄せては返すのを眺めていた。初めて見た光景にジュリアンは圧倒され、緊張も具合の悪さも忘れていた。 ハッとして隣に目を向けると、いつからか自分に向けられていた気遣わしげな視線とぶつかった。途端、ジュリアンは落ち着かなくなる。ストレートの男性は、きっとこんな時、戸惑ったりしないものだろう。またぎこちない気分になり、沈黙に奇妙なものが増した。相手もそう感じているのか、労りとともに複雑な表情を浮かべている。 「行けそうか?」     
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