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 母親はどうせ店ではしゃいでいる頃だ。皓が家に帰らなくても咎める者はいない。二階のジュリアンの部屋は出て来た時同様、ドアは開いたままだった。皓がそっと中の様子を窺うと、ジュリアンはベッドで丸くなって穏やかな寝息をたてている。それでも念のためドアのそばにあったゴミ箱を、ベッドの横に待機させた。彼の部屋も一階と同じように簡素で、机の上にノートパソコン、時計、学校のテキスト類、イングランドから持ってきたのであろう小難しそうな洋書、それからフランス語の本もあるが、ジュリアン個人に関してはほとんど伺い知れない。 机の椅子に下着とシャツという間抜けな姿で腰掛けると、皓は再びジュリアンに目を向けた。神経の太い皓には、たかがちょっと具合が悪くなったくらいであそこまでジュリアンが狼狽する理由が分からなかった。  可哀そうなくらい申し訳なさそうにしていたせいもあったが、女子を相手にするよりも丁寧にジュリアンを扱ってしまった。妙なくすぐったさに襲われ、皓は髪を掻き上げた。 月明かりが微かに照らす柔らかそうなブロンド、閉じられた瞼に隠されて驚くほど鮮明な緑の瞳は見えないが、おどおどしていない分、大人びて見え、色気すら感じてしまう。少し痩せ過ぎの、けれども柔らかそうな体つき。クラスメイトの女の子を見ているようだったという話にも頷ける。いや、確かに可愛い、可愛らしい。でもそれは女の子のように、というのではなく、動物や子ども、そういった対象としての愛らしさだ。     
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