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 皓と同じ帰国子女の新太(あらた)は、バカ騒ぎが大好きなアメリカナイズされたパーティーオタクで、すぐに昨日来たばかりの留学生のためと称し、ドンチャン騒ぎを催した。薄情なクラスメイトは片付けもそこそこ、さっさと帰って行った。残って後片付けや酔い潰れた友人の介抱をしている者もいたが、いざ昨日転校して来たばかりの外国人相手となると、皆どうしたらいいのか分からないのだろう。  砂浜からアスファルトへと上がる階段を昇ると、お約束のように白い壁に落書き付のトイレが、自動販売機と共に遠慮がちな灯をたたえていた。そんなお世辞にも清潔とはいえないトイレに入ると、個室の1つが閉まっていた。 「ジュリアン?」  女としけ込んでいるのでなければ、そんなに長くトイレから出られない理由は一つだろう。本日、皓は学校をサボっていたので、ドンチャン騒ぎの主賓であるジュリアンとは、まだ口を聞いたことすらない。遠巻きに見ていた様子では、誰かがパーティーに連れてきた女の子達に囲まれて、彼は小動物のように怯えているように見えた。つまり、見知らぬ国でいきなり女をトイレに連れ込むタイプとは思えない。  そういえば――と、皓は新太が面白がって話していたのを思い出した。ジュリアンが初めて教室に入って来た時、皆、男子校だということを忘れたのか、可愛い女の子を目の前にしたように固唾を飲んで見入っていたらしい。静まり返った教室で、誰かがうっかり「キレイだ」と口走り――何かというと動物園の餌の時間かと思うほどの大騒ぎせずにいられない連中だ――その後どうなったか、皓には簡単に想像がついた。     
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