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校舎の外側の階段といっても、中庭とその反対の道路側の壁は、背伸びをしてようやく外が見えるくらいの高さまである。下階から昼休みの喧騒が微かに聞こえてくるだけで、他には誰もいなかった。ジュリアンは、ふと気になる事があり、屋上への階段を降り切ると道路側の壁に手を掛け、身を乗り出した。
「今度はどうした?」
「桜が……」
数日前まで所狭しとふわふわ揺れていたピンクの花は、今日は隙間だらけになっていた。背の高い皓は、背伸びすることなく余裕で壁に片肘をついてジュリアンの隣に並んだ。
「夜中に雨降ったからな」
「本当に短い間なんだね。すごく綺麗だったのに」
「そうだな。でもこれからは緑の葉も綺麗だし、来年また咲くよ」
皓はさっさと階段に腰を下ろし、手首に付けていたゴムで無造作に髪を結わえていた。今度はその仕草に見入っていると、顔を上げた皓と目が合ってしまった。
「座ったら?」
埃や砂で服が汚れそうな気がしたが、ジュリアンは皓に倣って近くに腰を下ろした。
「こんな所で、ごはん食べていいの?」
「あぁ、構わない。日本の高校にしては自由なんじゃないか? 制服もないだろ?」
「うん。前の学校は制服だったから、カジュアル過ぎてびっくりした」
皓もそうだが、ジュリアンはジーンズを履いている生徒が多いのに驚いた。パブリックスクールはとにかくフォーマルだったからだ。
「どんな制服着てたんだ?」
「燕尾服だよ」
「燕尾服? オーケストラの指揮者みたいなやつか?」
ジュリアンが頷くと、皓はふっと笑った。
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