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 返事をしようとして、また吐き気に襲われたらしいジュリアンをそのままに、皓は外に出て自販機でミネラルウォーターを買った。いくら呑んでも酔わない皓は、男でも女でも見兼ねて介抱してしまうのが常だった。  酔っ払いの介抱なんて皓には慣れたものだった。皓の母親がラウンジで働き始めた頃は――と言っても、アメリカに住んでいる父親からの手当て、更には母の実家からも仕送りがあり、生活に困って仕方なくというわけではない。父親の再婚を知ったショックも拍車をかけたのかもしれないが、彼女が夜の仕事を始めたのは、皓にとっては実に下らない理由だった。とにかく皓の母親はチヤホヤされていないと落ち着かない性格なのだ。そこで彼女は中学生の皓を一人家に残して、夜の世界に飛び込んだ。今では水を得た魚のようだが、慣れるまではよく悪酔いして皓が世話をする羽目になっていた。良くも悪くも奔放な母親を見て育ったせいか、皓は女性に対して甘い幻想など抱いた試しがなく、特定の誰かと付き合いたいと思ったこともなかった。 「コウ!」  砂浜から短い階段を勢いよく駆け上がってきたのは、新太だ。群れるのを嫌がる皓をいつも半ば無理矢理仲間に引き入れる新太は、酒が入り上機嫌のようだ。 「ジュリアンは?」  英語の方が馴染のある新太は、皓に英語で話しかけてくる。皓は彼の体を押し戻すと、手で吐く真似をして見せた。 「あーあ、大丈夫かねー?」     
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