ケイゴ

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ケイゴ

警護がはじめて姫と相対したのは、星降る季節、真夜中の庭園であった。 彼女は真っ白な薄い布切れ一枚のみ身にまとい、花庭園の隅にある腰掛けに膝を抱えて座り、小さな肩を震わせながら静かに泣いていた。 その数分前、不審者が花庭園にいると部下から起こされ報告を受けた時、警護にはそれが姫だとすぐに分かった。大事になる前に事態を収拾すべく、枕元に立て掛けておいた剣だけ手に取って、急いで現場に向かったのだ。 部下達に箝口令をしき、主の居室館と花庭園には誰も近づけないよう改めて命令を出しつつ、家令に連絡しようと意識を飛ばしてみたが、真夜中ということもあり、その意識は閉じていた。 叩き起こすことに躊躇を覚えた警護は、仕方なく一人で花庭園に行き、そこで悲嘆にくれる姫の姿を認めた、というわけである。 そんな経緯はともかくとして、泣いている女性に対して何をどうすればいいのかなんて、朴念仁の警護には全くもって分からない。
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