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俺の言葉を聞き、少女は何も言わず鞘から小刀を抜いた。
小刀を握る少女の手は、震えていた。
ギラギラと光る小刀をみて、怯えるかのように。
……やっぱりだめか。
「やれる」
俺の心を見透かすように、少女は何度もその言葉を口にした。
俺は何も言わず、手に持った木刀を少女に向ける。
いつでもこい。
少女は小さな口をきゅっと結び、切先をじっと見つめる。
今度はさっきと違い、ジリジリとゆっくり間合いをつめる。
「どうする」
切り合いになったら少女に勝ち目はない。力で圧倒的に勝る俺の方が有利だ。
「どこで仕掛けてくる」
俺は心の中で問う。
少女と俺の刀は、交わりそうなくらいに近づいていた。
仕掛けたのは俺だった。横一閃で切りを入れる。少女はそれを抜群の反射神経で避ける。
「ここだ」
彼女を試す絶好の機会。
今の俺は無防備と言えるほどに、少女が俺を切るのに容易な状態だった。
だが、少女は切れなかった。
一瞬のためらいの後、放たれた攻撃を、俺は後方に下がって避けた。
俺は手に持っていた木刀を下ろす。
「……やっぱり、君を弟子にすることはできない」
「なっ!?」
ショックのあまり、少女は手に持っていた小刀を落とした。
「技術はすごい。そこらにいる兵士なんかよりも、数倍強い」
「……ならなんで?」
「 君は、相手を切ることにためらいがある」
「それは、相手が師匠だから。だから、切れなくて……」
「親しい人間でも、敵になって現れたら切らなきゃいけない。切らなければ、こっちが死ぬ」
戦いの世界は残酷だ。
そこには生きるか死ぬか、それしか存在しない。
たとえ生き残ったとしても、残るのは相手の首を切った時の、あのゴリゴリとした骨の感触のみ。
俺は少女が落とした小刀と鞘を拾い、その場にしゃがみ込む少女を残してその場を去った。
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