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現在は身を潜め、名も無き集落で生活している。
「……政府からの納税が厳しくてねぇ。家で作った米を全部納めても足りないくらいだよ」
「うちも作った織物は全部政府へ納めてるよ。毎日生きるだけで精一杯さ」
……家盛が天下統一してからというもの、それは独裁政治も甚だしかった。
政府の圧力が強かったのは九州、中国。西側地域全域だった。
俺もここ最近はまともな食事を殆どとれていない。
「狩りにでも出かけるか……けどなぁ」
ここ数日、政府の武士たちがこの辺をうろうろしているのを目撃した。下手に出かけて見つかるのだけは避けたかった。
俺の顔は政府の人間なら誰でも知っていた。家盛を最後まで苦しめた武将の名で、幸正と俺は全国に広まっていた。幸正は『日ノ本一の兵』と、一方の俺は『桜花を散らす兵』と呼ばれた。
トントン……木の板でできた戸が音を鳴らす。
……こんな昼間っから客か?
俺は政府の人間が来たかもしれないと思い、部屋にあった木刀を腰に隠す。
ゆっくりと戸をあけると、そこには誰もいなかった。
「いたずらか」
再び戸を動かし始めたその時、
「あっ、あの!」
声は思っていたよりも下の方から聞こえた。
目の前に立っていたのは、布切れ一枚を体に巻いた、小さな少女だった。
「私を弟子にしてくださいっ!」
「はっ?」
思わず声が出た。えっと、なんだって?
「私を、弟子にして下さいっ!」
「ちょ、ちょっとまて」
少女は不思議そうな目でこちらを見た。
「その、弟子っていったいどういうこと?」
「だから、十兵衛師匠の弟子にしてくらはい!」
あっ、噛んだ。
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