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「お父様は一年前、西軍として大阪夏の陣に参加していました。合戦の勝敗は知っています。西軍の敗北。お父様と私達家族は九州のこの地に移動を余儀なくされました」
重苦しく語るその口調からは、一家がこれまでどれだけ政府によって苦しめられて来たかが十分に伝わってきた。
「そこからの生活は地獄でした。厳しい納税に苦しみ、政府の政策による強制労働の毎日。お父様はすでに限界でした」
俺は口を挟むことなく、ただ少女が語るのをじっと聞いている。
「お父様はある日、私に米と味噌をくれました。それは私達家族が本当に大切していたものです。どうしてもお金に困った時に使おうと、家族で約束していたものでした。それを渡していいました。『山を一つ超えたところに小さな村落がある。そこに十兵衛というやつがいる。そいつにそれを渡して、何としてでも弟子にしてもらえ』と。その次の日、父は政府の人たちに反抗して……その場で処刑されました」
「ッ……!」
「だから私は十兵衛師匠を探してここまで来たんです!お願いします!どうか私を弟子にして下さい!」
背筋を伸ばし、手を畳につけ頭を下げる。俺はそんな少女にどうしても聞かなくていけないことがあった。
「どうして……俺なんだ?」
少女は顔を上げて言う。
「十兵衛師匠のことは父からよく伺っていました。大阪夏の陣、最決死の作戦に参加して、唯一生きて返ってきた方だと」
家盛兵20000に対し、こちらは兵2000。敵陣の最深部まで突入した部隊は、たとえ家盛を討ったとしても、生きて返ることは決してできなかっただろう。
そんな中俺は命からがら生き延びた。逃げる時に殺した敵兵の数は数え切れないほどだった。
『桜花を散らす兵』。こうやって呼ばれる理由は、敵兵を切った時に空に舞った血が、桜の花びらのように見えたから。
「それに十兵衛師匠は、16歳の時にはすでに、『西の十兵衛』と言われるほどの剣豪でした」
「そこまで知ってて……」
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