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自然と自分の家に居る暦くん。嫌じゃない。だって友達だったから。恋人になったからと言って、変わることは特になかった。しかしその時である。
「そうだのん。明日空いてる?」
「空いてるよ。」
「デートしよ。」
デート…その響きについ頬が熱を帯びてしまった。
「何処、行くの?」
「暑いからさ、室内遊園地にしよう。ショッピングモールもあるし。それなら、のんも窮屈じゃないだろ?」
「あ、ここのおばけ屋敷新しいのになったんだよね!行きたかったの!」
「そ?それは良かった。」
暦くんは優しい…我が儘な私を、決して見捨てたりしない。
「いいなぁ、私も三條くんと行きたーい。」
「母上たちは博物館巡りだっけ?」
「うん。でも遊園地も連れて行ってくれたよ?」
思い出し笑いをする母上はとても幸せそうで、素直に可愛いと感じた。今でも父上に恋しているんだなぁ…と、思わされる。一瞬…本当に一瞬、
(いいな…。)
そう感じたことは私の秘め事である。
「のん、手が止まってるよ。」
「暦くん、自分は適当なのに人には厳しくない?」
やはり親子である。母上に次いで私も頬を膨らませると、
「だって早く終らせて貰わなきゃ。夏休み終わっちゃうよ。」
さらりと、何気ないことを言われた。けれどその何気ないことが、私の心に響く。
水溜まりに雨雫が落ちてきたような、そんな細やかなものなのだが。確かに何かジンときた。
「暦くん、晩ご飯食べていく?」
「いいんですか?遠慮しませんよ?」
「どうぞどうぞ。」
「じゃあ頂きます。」
ついでに言うと、私たちが付き合いだしたことは、まだ両親を除いて誰も知らない。光莉ちゃんにすら打ち明けていない。
それはきっと、魚の小骨が引っかかったような、そんな気持ちが拭えないからかもしれない。
(優希に何て話そう。)
数学のドリルに目を落としながら、そんなことを思っていた。
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