十二月の夏

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事件のてんまつを報告する記事が登場したが、それに目を止めるものは少なかった。 「ミスター&ミセスヤマダは、キャンプ中、真夜中白人二人(一人は少年)に襲われ、拉致され、廃家に監禁された。二人は別々の部屋の閉じ込められ、ミセスヤマダは、何度もレイプされたことを告白している。男たちは、ブッシュでマリワナを密栽培する人間と推測され、二人が運悪くその地域に入ったために起きた犯罪のようだ。ミセスヤマダは、窓のない薄暗い部屋でトイレが必要な時は外へ出ることを許されたが、それ以外は閉じ込められていたため、場所や犯人たちの容貌などについて、正確な記憶がない。それとは反対にミスターヤマダは、英語に堪能なことから、犯人たちと様々な交渉があったとみられ、それが仇となり、いかなる情報も警察に知られたくない犯人たちに、最後は殺されたという見解だ。状況から犯人の逮捕はかなり難しいものと考えられている」 日本航空722便の搭乗アナウンスのラストコールが聞こえてきた。 白い布に包まれた昭夫の遺灰を片手で胸に抱くと、ハンドバッグをつかみ、待合室ののソファから冴子はゆっくり立ち上がった。 「朝早くからお見送りありがとうございました。今回の事件では、本当に皆様にご迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした」 と、同じようにソファから立ち上がった皆んなに、深々と頭を下げた。 「とんでもないわ。冴子さん、大変ですけど、しっかりと気持ちを強く持って、日本で再出発るのよ。必ず幸せになってね。それがここに居る皆んなの願いよ」 という早川夫人の言葉に、昭夫の同僚や部下の妻たちがうなずく。 「日本ではここで起きたことは全て忘れるのよ。時間が必ず全てを解決してくれるわ」 と、冴子の肩に、優しく手を置いた。
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