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静岡市のの小さな商事会社で事務員をしていた冴子に、昭夫との見合いが持ち上がったのは、冴子が三十六 才で、昭夫は四十才の時だった。妹が嫁いだ親戚筋の、いわば遠縁に
あたる昭夫がシドニーに住んでいるということに、冴子は興味を抱いた。見合いの際の印象は、どこにでもいる中年にさしかかった男性というものだったが、悪い感じはしなかった。「ぜひシドニーへ」という言葉を聞いた時、冴子は承諾した。海外で、自由で開放的な生活ができるかもしれないと期待が膨らんだが、着いてすぐそれは裏切られた。
冴子は海外ではなく、小さな日本人社会に来たをことを悟った。昭夫も疲れた時などは、「せっかく海外で思い切り頑張ろうと勇んで来たけれど、結局、日本の会社で日本以上の
しがらみにがんじがらめで、ヒィヒィ言ってるんだから」と、くさった。KKトラベルは誰でも知っている大手の旅行会社だが、トップの二人は出世街道をあるく日本本社からの社員だったが、後は昭夫のようにローカルと言われ、現地採用の人間が多数を占めていた。どんなにがんばろうと本筋の社員にはなれない。
「四十代で、独立して、旅行のコーディネートの会社を立ち上げたい」 と、語ったことがある。
子供ができれば、また状況が変化するはずと思い願ってきたが、コウノトリはまだ来な
い。これからますます難しくなると悲観的になる。年令もそうだが、昭夫とは殆どセックレスの状態が続いているのだ。
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