揺らぎ

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「婚姻届け、出していいんだな? 」 野北に最後通牒として確認された。淳美はうん、と頷いて彼の瞳を見てしっかりと答えた。 「真にぃ……、真治さんのお嫁さんにしてください」 「ああ」 男がにっこりと笑って、女も穏やかな笑みを浮かべた。 (そう、私は) この人と生きていくんだ。 (この子と共に)  野北が居ない間、手すさびに覚えたイタリア語が浮かんだ。 (” Sei nel mio cuore ”…… あなたはわたしの心の中にいる)  その時、野北の携帯電話が鳴り、ドアのインターフォンが来客を告げた。 『私、出るね』口パクで”夫”に伝えた。彼は携帯電話を耳に充てながら、”悪いな”というジェスチャーをしてみせ、部屋の方に戻った。  魚眼レンズを覗いても、人物が特定できない。中に男が居る気安さから、淳美はロックを外してドアノブを回した。 --と。 金色が眼の前を横切ったな、と思ったら淳美は力いっぱい何かに押し付けられていた。
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