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フロントに降りた時、何かが耳に入り込んで来た。何気なく、淳美は音がした方向を振り返った。
「Daniel! I wanted to meet
(ダニエーレ!会いたかった)」
「E passato un tempo fa. Una bella donna!
(久しぶりだね。のっぽの美人さん!)」
夕人と女性が熱烈な抱擁を交わしていたのだった。
淳美はそっと、裏口から出て行った。
(からかわれたんだ)
泣くまい、と思う。
(ユージィン……ううん、ダニエーレはイタリア男で。日本人の女の子がつまみ食い出来ると思ってただけなのよ)
自分に偽名まで名乗っていたではないか。そう思いつつ、胸が引き裂かれそうになる。
(良かったじゃないの、淳美。最悪な夜を、彼のおかげで塗り替える事が出来たんだもの)
後悔はしていない。
(ありがとう、ユージィン。貴方がくれた素敵な一夜を忘れません。……でも)
ただ、ただ。
哀しかった。
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