25人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうか……」
上司の事、その後のユージィンとの逢瀬。
涙ながらに事の顛末を告げた女を、男は痛ましそうに見つめた。
(好きになっちまったんだな、ソイツの事を)
自分の胸の痛みには蓋をして、眼の前の女に話しかけた。
「敦美、その下司上司を警察に訴える事は出来ない」
男の言葉に彼女は頷いた。
(本当ならば面相が変わるくらいに殴ってから、警察に突き出したかった)
野北の本心だった。しかし彼女自身が事実を隠蔽してしまったのだ。
「働き続けられるか」
問えば、激しく拒絶したので野北の肚は決まった。
「とりあえず俺は仕事に行くから、お前はこの部屋に居ろ」
テキパキと色々なものを、彼女の周りに置いていく。
「家にあるモンは何でも使っていいし、カップ麺とかしかないが食ってろ。ああ、夕飯は俺が買ってくるから、作らなくていい。何かあったら電話しろ。俺からも定期的に連絡をする」
幼子に言い聞かせるように伝えれば、彼女はコクンと頷いた。会社と携帯の電話番号を記して卓袱台の上においた。
「俺が出た後、ロックを掛けておけよ。宅配も新聞代の集金も出なくていい」
淳美は人形のように頷くのみだった。
野北は会社の会議に出席する時しか着ないスーツに腕を通すと、鍵を閉めて出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!