25人が本棚に入れています
本棚に追加
検査薬が野北に見つかってしまったのは、偶然だった。
「っ、淳美! これっ」
「返してっ」
女は男から奪い返すと、ぶるぶると躰を震わせていた。野北は彼女の背中を凝視していた。小さな背中。頼りなげな身体。
「……生むのか」
静かな問に、淳美は頷いた。
何故か彼には、彼女の答えは訊ねる前からわかっていた。
「男に、連絡は取らないのか」
ユージィンの事を訊かれているのだと思った淳美は、ふるふると首を振った。
(あの人の名字も知らない。携帯番号すら)
今更に、そんな事に思い至った。
(そもそも、もう国内に居ないのかもしれない)
恋しい男が傍に居ない。身を千切られるような寂しさと心細さを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!