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数週間、二人は表面上穏やかに暮らしていた。野北は必ず定期健診には付き添ってくれた。
二人で買い物に出かけては、赤ん坊の物を少しずつ買い揃えていった。並んで歩く時、二人の指が時折触れた。そっと野北が握りしめてきて、敦美は逆らわなかった。
初めて二人が手を繋いだ翌日は、野北の誕生日だった。
「真にぃ、お誕生日おめでとう。何か欲しいもの、ある?」
敦美は、出勤しようとしていた男の背中に問いかけた。彼女の問いに、振り向いた野北は答えた。
「お前と子供が欲しい」
男の真剣な瞳から、彼女は逸らす事は出来なかった。
暫しの沈黙の後、敦美はこくんと頷いた。野北は、ほうっと大きく息を吐いた。
ゆっくりと彼女を腕の中にしまいこんだ。
「二人を大事にするからな。約束する」
男の言葉に、もう一度頷ずき自分からも彼を抱きしめた。
(さよなら、ユージィン)
貴方がくれた暖かい愛情ごと、お嫁に行きます。
(真にぃと、恋人にはなれないけれど)
この子の父と母にはなれる。
(そして夫婦になって、共に歩いていくんだ)
野北が指輪をポケットから取り出して彼女に、ついで自分の指に嵌めた。敦美はペンと婚姻届け、印鑑を持ってくると靴箱の上でサインをした。
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