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「淳美っ!探したんだ」
悲痛な声が頭の上から降ってきて、淳美は恐る恐る顔を上げた。そして、息をのんだ。有り得ない人物が、そこには居た。
「……ユージィン? 」
(まさか)
夢ではないのか、と思った。もう一度、腕の中に戻りたいと切望していた男性に抱きしめられているなど。
(また、私は。夢から覚めたら、泣くことになるの)
いやいや、と女が腕の中で首を振ったのを、夕人は誤解した。
「あの日、部屋に戻ったら、君は居なくてッ」
ぎゅうっと抱きこまれた。
「Non posso vivere senza di te!
(君なしでは生きていけない! )」
早口で囁かれた。
この人は、本音の時はイタリア語になるのかもしれない、と淳美は思った。
「アツミ。あの日、どうして消えてしまったんだ?」
少し距離を作られて、瞳を覗き込まれた。
(だって)
あの日、貴方はフロントで女性と嬉しそうに抱き合っていた。
「日本に住んでいる妹にも協力して貰ってたけど、君を見つける事が出来なくてっ! 」
「偶然だったわ」
進み出てきた女性を見て、淳美の眼がまん丸くなった。
(あ)
あの時、夕人と抱き合っていた女性だった。
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