再会

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 緊迫した空気が支配していた。 「……」  淳美は二人の男の間で、選べないでいた。 愛する男と、自分を護ると誓ってくれた男。 (真治さんに迷惑ばっかり掛けて、今更別れようなんて言えっこない……! )  覚悟を決めた淳美は、口を開きかけた。 「行けよ」 しわがれた声であったが、無表情に野北は言った。 「真治さん……?」 淳美は”夫”の言っている事が呑み込めなかった。 (お前がイタリア語を勉強していたのは、コイツの為か) この男は、ずっと彼女の心の中に棲んでいたのだ。 「元々、”父親が居ないのなら、俺がお前の胎の子の父親になってやる”て約束だったんだ。本当の父親がお前達を探しまくってて、ようやく迎えに来てくれたんだ。俺がお前の亭主をする必要はなくなっただろ」  乗り気でない淳美を、子供を盾にして結婚を承服させたようなものだった。 (淳美が俺の事を”兄貴”としてしか見てないのを知っていてプロポーズしたんだ)  追々、夫婦としての時間を重ねれば、彼女がいつか自分を見つめてくれるかもしれない……。計画は、この男の出現で砕け散ってしまった。  しかし。 (お前が幸せなら、それでいいんだよ) ”他人の掌中の珠を預かっていただけだ”。 野北は己に言い聞かせた。 「真治さん」 行っていいの、と訊く前に彼女は夕人の前に押し出された。 「早く行けよ」 「ありがとう!」 淳美は万感の思いを込めて、叫んだ。傍らで夕人がぺこりと頭を下げた。
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