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淳美はおずおずとマグカップを受け取り、口をつけた。冷たく強張った躰の中に、温かい一筋が流れ落ちてゆく。
ぽとり。
マグカップの中に透明な雫が落ちていく。
「馬鹿だったんです」
父親のいない淳美は、上司に憧れめいた想いを抱いていた。上司も素直な彼女を可愛がってくれて、何くれとなく面倒を見てくれた。食事に誘われるのも、父親とデートしているようで嬉しかった。『プレゼントがあるんだ』とホテルの部屋に誘われても、警戒心を持たなかった。
「まさか、あんな……っ」
”子供じゃあるまいし”
”男と女が二人で出かければ、どうなるか位わかってただろう”
上司の言葉が脳裏によみがえり、淳美はぎゅと自分の体を抱きしめた。
夕人は痛まし気に淳美を見つめた。
「好きなだけ、この部屋に居ていいよ。シャワーもどうぞ」
彼はそういうと、テレビをつけ画面に集中してしまった。
「……」
淳美は正直、いきなり腕を掴まれて室内に押し込まれた時には、この男性に怯えていた。しかし、彼は極力自分を怖がらせないようにしてくれている。
おずおずと、男の背中に話し掛けた。
「シャワー、お借りします」
「どうぞ。バスローブも使っていいよ。ここツインをシングルユースしてるから」
明るい音楽番組を流してくれているのは、彼の気遣いなのだろう。
男の視界に入らないように室内の片隅に異動した。なんとか服を脱いで、ハンガーに吊るさせて貰う。洗面所で下着を脱ぐときは眼をつぶった。伝染したストッキングは記憶を棄てられればという願いを込めて、ごみ箱の中に叩き付けた。
暖かいシャワーが、彼女の体をほぐしていく。ボディジェルも借りて、ごしごしと洗った。
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