第2章 顔認証システム

1/1
前へ
/4ページ
次へ

第2章 顔認証システム

 編集長はカラカラに乾いた喉から必死に声を絞り出した。 「……この店が雰囲気が良くて酒と料理が滅法美味いとたまたま知りまして……でも、検索してみたら、この店の情報がネットからすっぽり抜け落ちていたんです。今時、そんなことはありえないから色々調べてみたら、誰かが裏でネット工作を行っているとしか考えられなくて……今日、この店に来て、ご主人をじっくり観察して、それでピンと来たわけです……やはり、あなたはプ」  「黙れ殺すぞ! お前はさっき外に出て、スマホもネットもつながる場所を探して、画像データを編集部のパソコンにメールして、それを顔認証システムにかけるよう編集部員に電話しただろう!」  編集長の腰から両脚にかけて再びむず痒い痺れが走り、暖かい小便が下半身にゆっくりと広がっていった。 「生憎、画像データは俺のパソコンに届いている。さっき電話で受け答えしたのも、この俺だ!」  亭主はノートパソコンを、ディスプレイを編集長に向けてカウンターに置いた。 「このカメラマンの写真がお前の雑誌に載っているのをたまに見るが、撮影があまり上手くないな」  編集長はカメラマンのことをすっかり忘れており、隣の席の死体に改めて気付き、心臓が今度は二秒ばかり止まった。 亭主のパソコンに搭載された顔認証システムは猛スピードで画像の照合を進め、結果が次々に表示されていった。 「……やっぱりそうだったんだ……あんたは二〇一五年三月に一〇日間、行方不明になった時、偽物と入れ替わったんだ!」 「なぜそう思う」  亭主は初めて、人懐っこそうな笑みを浮かべて編集長に尋ねた。 「だって、さっき盗撮した画像と行方不明事件前の画像とのマッチング確率が八〇%、九〇%なのに、再び世間に姿を現した後の画像は六〇%台かそれ以下じゃないか!」 「一〇日間、隠れてしわ取りやリフトアップといった手術を受けていたとは思わないのか?」 「やっぱりあれは替え玉だったんだ! ウワサは正しかったんだ! あんたは暗殺されかけて整形して植毛して、替え玉とすり替わっったんだ! そして密かに日本に亡命したんだ! あんたやっぱりプ」 「黙れ殺すぞ! そして『たんだ』と何度も言うんじゃない! 週刊誌の編集長ならもっと言い回しに気を使え! 大体、俺が暗殺計画ごときで逃げ隠れする男に見えるか? 政敵など皆殺しにするとは思わないのか?」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加