それが運命でした

不平

　医師の言葉に訝しむ表情を見せた男性が頷いて、親兄弟、親族もみなベータで家系的にもベータで間違いないと説明したところで、医師はしかと男性の顔を見つめた。
『どうか落ち着いて聞いてください。精密検査で、あなたの今の体質的性別……オメガバース性はオメガであると精密検査の結果がでました』
『は……？』
　驚愕する男性の表情を見た俺は、緊張感のピークに達したらしく乾いた笑いがこみ上げてきたが、再現VTRは続く。
『特発性性転化、という非常に珍しい体質です』
　そこでVTRが途切れ、その名前について詳しく説明するナレーションが入る。書いて字のごとく、決定していたオメガバース性がある日突然変わってしまう病気だ。症例があまりに少ないので研究も満足に進んでいないため、そもそも最初の検査結果が間違っていただけなのではないかとか、それを病気とすることを疑問視する声もあるそうだが、発症した本人からすればそんなことどうでもいい。生きていく上でオメガバース性はかなり重要視される。あのオメガの女性が言っていたような弊害も起こりうる。特性が顕著に生活に影響するオメガになったのならなおのこと。良くも悪くも今まで積み上げてきたものが一瞬で瓦解するのだ。約束されていたものも、生き方も全てが変わってしまう。

ーー今の俺のように。

　いつの間にか乾いた笑いは自嘲に変わっていた。