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ただでさえ、混乱している時にそんなことを言われて頷く者は少ないだろう。自分自身が一番わかっている。もう戻ることはないと。
『もしこの番組を見ている方の中に僕と同じ境遇の方がいらっしゃったら、ご連絡ください』
男性がそう言うと、画面下のテロップがどこだかの法人が立ち上げたコミュニティの連絡先とホームページのアドレスに変わった。話をしてみたいと思ったことは今までなんどもある。しかし医療機関さえも信頼することができないのに、そう簡単に名乗り出るなんてありえなかった。
心の中で詫びて、せめてホームページだけでも見てみるかと、近くに転がっていたスマートフォンを掴んで検索する。やはり深夜でもテレビの効果は大きいようで目的のホームページは大混雑で読み込み画面のまま止まってしまった。
「まあ、物珍しいよな」
どうにもこういった話題になると卑屈な自分が顔を出す。劣等感や疎外感は昔ほど感じない。俺のまわりの人間は理解がある方だった。
いつまで経っても真っ白なままだった画面が唐突に変わり、見知った名前が表示され着信を知らせた。
「……もしもし? 今何時だと思ってんだよ」
開口一番の俺の文句に電話口の男は、微塵も気にした様子を見せずに笑った。
『起きてるじゃねえか。お前、今テレビみてるか?』
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