不平

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 幼馴染で腐れ縁の、一之瀬正秋(いちのせまさあき)は笑い声をすぐに引っ込めて神妙な声音で問うてきた。 「見てるけど」 『オメガバースに関する特番だろ』  昔からやたら勘の鋭い一之瀬の言葉にどきりとする。さすがはアルファと揶揄するのも馬鹿らしいほど、この男は完璧だった。眉目秀麗、文武両道、家も古くから続く名家で、世界的にも名の知れた大企業の社長様だ。そんな男と平社員の俺が知り合いなのは、実家同士の付き合いがあるから。俺の家もそれなりに大きな家で大企業の会長一族だったりする。今は母方の旧姓を借りて暮らしているからそういう面にはほとんど関わることはない。 「……ああ、まあ」 『その胡散臭い団体に連絡なんかするなよ』  鼻水を垂らしてた子供の頃からの付き合いだから当然、俺の体質のことも知っているし、18歳の途中までのアルファだった俺も知っている。 「するわけないだろ」  ホームページを覗こうといていただけで直に連絡をとろうとしたわけではないからセーフだよな。 『……そうか、ならいい』  安堵したように口調を柔らかくした一之瀬に、思わず笑ってしまう。  普段は唯我独尊を地でいくような奴のくせに、オメガにはとことん親切で紳士になる。特別扱いだと言われようとも一之瀬はオメガを守るのはアルファの役目だと言って聞かない。     
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