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しまった、と思ってももう遅かった。俺の露骨な動揺を一之瀬が見逃す訳もない。
『……お前が御子柴から桐ヶ谷になってもう10年だぞ。兄弟げんかにしちゃいい加減しつこいぞ』
御子柴は俺の実家の家名だ。家を出た時にその姓を名乗ることをやめた。そうなった経緯はもちろん18歳の時に俺のオメガ性が変わってしまったというのが一番の理由。嫡男であったが家を継ぐのはアルファと決められていたから、従うほかない。一之瀬もそのことは知っているし、その頃から俺たち兄弟の不仲が顕著なものになったことも薄々感じとっているだろう。
「俺は別にけんかしてるつもりはないって」
『家督のことか』
幼馴染だからといってそこまでずかずかと踏み込んでこられるのは一之瀬だけだろう。しかし俺はその言葉をはっきりと否定した。
「俺はそこまで御子柴に執着はねえよ。まあ長男って立場からすれば、ちっとは悔しいけど、だからって雅人を恨むとかそんなことはない」
意地を張っている訳でも自分の気持ちを偽っていることもないから、軽い口調で話す俺に一之瀬はまたため息をつく。
『だったらなおさらわかんねえよ。昔は仲良すぎるくらいだったじゃねえか』
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