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それがいけなかったんだ。あの日の苦悶する雅人の姿が、今も脳裏から離れない。
「……昔の話だよ。というかなんで急に雅人の話?」
暗にこの話題は止めだと制した俺に、一之瀬はまだ納得できていないらしかったが舌打ちひとつで合意してくれた。
『発表はまだだろうが、あいつ今年中に系列会社の社長に就任するんだと。どうせお前のことだから実家からの連絡断ってんだろ』
「……そうか、あいつも頑張ってんだな」
俺の空笑をどう受け取ったのか、一之瀬が真剣な声音でまた突拍子のないことを言い始めた。
『……瑞貴、お前うちの会社来いよ』
「はあ?」
これにはさすがの俺も間抜けな声をあげてしまった。一之瀬が社長を務める会社は同族グループ傘下ではなく、一之瀬個人が立ち上げた急成長の会社である。
若い敏腕社長として経済誌などでもその社名と一之瀬の名前はよく見かける。
「急になんだよ」
『忙しすぎて手が回らん』
「いやそれはお前がちゃんと仕事を分配しないのが悪いだろ」
そうは言っても業績は右肩あがりの急成長中の会社だから、仕事はやってもやっても減らないだろう。
『人手も増やしてるし業務委託もしてるが、うちの内部の質をもっと上げねえと』
「だからってなんで俺なんだよ」
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