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結局さっきの特番は最後まで見ることなく終了し、いつの間にか別のバラエティ番組がはじまっていたので電話を片手にリモコンの電源ボタンを押す。
静かになったところで、一之瀬の珍しい弱音に耳を傾ける。
『だって高校の時、副会長だったじゃねえか』
「いや関係ないだろ」
高校時代、同級生だった一之瀬が会長を務め、俺は副会長としてその補佐を行っていた。とは言っても10年も前のしかも学生の頃の話だ。社会人として求められるスキルはその比ではない。
『お前、俺の人選眼なめるなよ?』
「はいはい」
根拠のない話を間に受けるほどお人好しではない俺は生返事をしながら、デスクに置きっぱなしだった書類を持ち上げる。
『本気にしてないだろ』
「そんな中身のない話を本気で聞けるわけないだろ」
わざとらしく鼻で笑ってやる。
『ほんとにお前は……まあその堂々してるところも見込んでるわけだが。まあとにかく具体的な話をすりゃいいんだな』
「は?」
『明日の20時にグランドフィオレットホテルのラウンジで待ってる』
「え」
『逃げるなよ』
いきなり時間と超高級ホテルの名前を告げて、強制的に約束を取り付けて一之瀬は一方的に電話を切ってしまった。こういう強引なところも昔からなにも変わってない。
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