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「えーとね、やさしくてかわいい子がいいな! 兄さんは?」
「え?」
話の流れでそうくるのはわかっていたのに、俺は咄嗟に言葉が出てこなかった。
無垢に笑う雅人が将来、言うような優しくて可愛らしい番と幸せそうに寄り添う姿を想像した時に、得体の知れない不安のようなものを感じた。
「ま、まあ俺もそんな感じかな」
大切な弟の幸せな姿を見たい気持ちは嘘じゃないのに、それと同じくらい寂しい気持ちになったのは確かだった。
今思えば、そこから歯車が狂い始めていたのかもしれない。
「っと」
ぼんやりとしていた俺のスーツの上着の中でスマートフォンが震えた。画面に表示されていたのは、一之瀬からの『着いた』という一言だけの簡素なメールだった。
「あ、もうこんな時間か」
猫用グッズはまた今度買いに来ることにして、約束の場所へ足を向けた。
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