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「よお」
オレンジの照明が落ちる、広々とした高級ホテルのラウンジで俺を待っていたのは、昨日の電話ぶりの一之瀬正秋だけではなかった。
190センチ近くあるだろう日本人離れした体格と老若男女が振り返るだろう美貌をもつ黒髪の男の隣には、俺と同じくらいの背丈で背筋をピンと伸ばした女性がいた。
こちらも大層な美女で、流れる深い赤茶色の長い髪は絹のようにさらさらと流れている。その姿と、立ち振る舞いからアルファの女性だとすぐにわかった。
「おお。お疲れ……えっと」
豪奢な空間でも、いい意味で目立っている二人の存在感に気圧されながらも手を上げて傍らの女性に目を向けると、にこりと微笑み返され隙のない動作で名刺が差し出された。
「初めまして。私、一之瀬社長の総合秘書を務めさせていただいている、九重(ここのえ)つぐみと申します」
友人と会うだけだと思って油断していた俺は慌てて懐から名刺を取り出して、自己紹介する。
「桐ヶ谷瑞貴です。一之瀬とは友人でして」
「ええ、伺っております。宜しくお願いいたします」
美しい笑顔を崩さない彼女にこちらも笑みを返すことしかできない。
「まあ、とりあえず座ろうぜ」
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