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じりじりと全身を圧迫するような、一之瀬のアルファとしての気迫に息がつまる。
「……それでも頷かないのは“俺の会社”だからか?」
「ちが、う」
否定してみたが、やはり結局気になっているのはそこだった。幼馴染だから、という理由でこんな高待遇での引き抜きをされているのではないのかと思ってしまう。
それだけは、俺の中にあるアルファの残りかすが許さない。無力だからと甘やかされるのはまっぴらごめんだった。
「瑞貴。俺は情で仕事しない、なめるな」
そんな俺の気持ちが伝わってしまったのか、苛立ったように一之瀬の気配がより一層ぴりついて、圧が強くなった。
「っ……一之瀬、“それ”やめてくれ……」
思わず息を詰めて胸元を抑える俺に慌てて一之瀬が緊張を解いて、ウェイターに水を頼んでくれた。
「悪い、無意識だった。大丈夫か?」
「大丈夫、俺も悪かった」
アルファはその存在感すらも武器にできる。さっきのような圧もそうだし自分のフェロモンを調整して他の性を圧倒することができる。しかしそれも昔の話で今は、失礼な行為として憚られている。
自制に長けた一之瀬がそんなことになるなんて、どれだけ必死なんだよと笑った。
「瑞貴」
「何してる」
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