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優しいお前を苦しめてしまったのが悲しくて、理由なんて考える前に自然とそう口にしたが、雅人の逆鱗に触れてしまった。汗ばんだ髪を掴んでいた雅人の手が拳になって俺の顔の真横に叩きつけられる。
「黙れ!」
まるで牙を剥いて威嚇する獣のような形相になった雅人が、突然俺の喉仏に噛み付いた。鋭い犬歯が薄い皮膚を切り裂いた感覚に俺が抱いた感情は恐怖ではなかった。
「あ……っ!」
命を奪われるかもしれないという恐怖を上回る快感が瞬きの間に全身をめぐったのだ。
びくびくと跳ねる体を雅人に抑え込まれたまま行為が再開されたが、もうさっきまでの冷静さはなくなっていた。無理に押し入られた後孔が拒むことを忘れ、雅人の形になろうと蠢いているのが自分でもよくわかった。
触れ合う部分が火傷するほどに熱くなり、雅人をくわえて離さない腹の中が疼痛を催している。何かがおかしいと、頭の中で警鐘が鳴り響いたけれどそれを振り切るように雅人の熱を求めた。
「なん、だ、これ……っ」
「は、ぁあ」
お互い生まれて初めて味わう他人の熱と快楽に、飲み込まれるのはあっという間だった。別の個体であることの悦びの深さを初めて知った。
「瑞貴(みずき)……っ
全てはこの日に起因したのだった。
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