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この屈曲する河に囲まれた一帯は、今様には神とでも呼ぶべき、おおいなる上位者のもたらした恩寵の土地、フィールド・オブ・ワンダーとして畏敬を集め、遠い祖先たちはここに寄せ、次第に半移動半定住のくらしを打ち立てていった。ジャムオジたちは、その初期入植者から数え、およそ五十世代目にあたる。
そしてはじめバラバラに行動していた先人達も、次第にまとまった集団を形成するに至り、現在では時計回りにズルンゴ、ラッキョ、シンコペの三部族が存在する。言語・習俗に大きな隔たりがあるわけでもないため、ことさらの敵対関係にはたたないが、やはり他への遠慮や緊張から、自然と互いが互いに対して最も遠い距離をとるようになり、上空から見ると、円周上の三点がちょうど正三角形の頂点をなしながら、一年をかけ一周する様がみてとれた筈である。彼ら自身も幾何という自然の法則に従っていることを知ったら、どれだけ驚いたことであろう?
ところがたまに、その法則が崩れることがある。ジャムオジの曽祖父の時代、シンコペの連中がせっかち起こし、スピードを早めたため、正三角が長細いものにかわり、残る二集団も本能的に加速。一年しないうちにもとの距離感に復したものの、スピードだけは従来の二倍速のまま。当人達も何故急いでいるのかわからないまま、思うにまかせて狩ができず、栄養状態が悪化して全集団絶滅しかけたことがあった。その教訓を生かし、現在ではちょうど三角形の中心点に石づくりの神殿が作られ、各部族から持ち回りで選出される経験豊富な古老を長として配す。
医者・薬のない時代、ソボロのごとく外敵にやられるケースもままある中で、奇跡的に長命保った古老たちは、それだけで崇敬に値する。この長に選ばれた古老は狩に出られぬかわり、各方面より持ち込まれる貢物で生活するが、これに目をつける女が後を断たない。だが老いのかなしさ、来る者こばまず娶ってみても、それだけの女を喜ばせることは不可能であり、神殿周辺には欲求不満にいら立ち奇声を上げる者、また大儀にもこの遠地まで別夫呼び寄せ一族寄生する者などがたむろして、近年異様な雰囲気に支配されつつある。
この神殿の登場は、オジャマッポの社会構造に大きなインパクトを与える出来事だったということは明記しておきたい。
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