第2章

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 してこの長はというと、ズルンゴ、シンコペ、ラッキョの三方にここぞという適切なタイミングで伝令を飛ばし、都度、移動を促すコントローラーとしての任に当たる。伝令には二昼夜走り続ける健脚を有し、かつ私心なく義務に殉じる青年が選ばれるが、あるとなおよしとされたのが、記憶力と弁舌の才。伝令たちは、神殿をハブとする各部族間の情報媒体としての機能をも事実上担っていたのである。  この朝、ジャムオジのもとへ立ち寄ったのもこの伝令、シンコペ出身のセザールであった。 *  *  *  「ジャムオジ、おきなよ」  聞き覚えのある声に目を開けると、久しぶりに見るセザールだった。  「みんなもう狩に出てるよ」  ジャムオジが狩に出られないことを知りながら、セザールはいつも意地悪をいうのであった。走りどおしで来たその顔は薄桃色に上気して、あどけなさが際立ってみえる。まだ子供なのだ  ブンブクは、生まれつき体が弱い。またどうしたわけか右で二本、左で一本、足の指が皆より少ないため、歩くことが得意ではない。外敵への懸念から、ブンブク一人を置いて遠出することはできないのだ。  「やっと移動なの?しばらくぶりだね」「最近、急に珍しい獲物が増えてきたんだって。ダビドフのじじいが、これならもっとゆっくり狩していいだろうって。噂で聞いてない?」  「うん」 「こんな遠くにポツンといるからだよ。もっとみんなの近くに行けばいいのに。ここまで走ってくるの、無駄なんだぜ」  セザールは口をとがらせる。苦笑の後ジャムオジ、  「珍しい獲物って?」  「俺もまだ見たことないんだけど、小さいのに足が速くないからすぐ捕まえられるって。結構前にラッキョで大騒ぎになって、ズルンゴでも三日前、ジャモワッパとコスイネ出くわして、早速捕まえて食ったらしいよ。」  「毒は?」  「ラッキョでは特に何もおきてない。そうだ、これじじいから」  長からあずかった干し肉の束を思い出し、差し出すセザール。  「いつもありがとう。ほら、ブンブク」  ふて寝を続けていたブンブクは、目を輝かせ半身を起こす。神殿の長ダビドフは、老人なりに、ジャムオジの窮状には同情を寄せていたのである。
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