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ピイッ
ピイッ
ピイッ
ピュイッ
ピュイッ
ピュイッ
ジャムオジは右腰にぶらさげた棍棒の柄から手を離し、一歩、また一歩と慎重に歩を進めだすと、相手は少し後じさりしたきり、それ以上逃げようとはしない。既に先の笑顔に警戒心をほどかれて、自然と二歩も離れぬ距離まで接近、するとそのものは目をそらし、ブンブクへ自分の笛を手渡す。
ピイッ
ピピイッ
ピイッ
新しい笛の音にたかぶったブンブクが滅茶苦茶に吹きならす間、ジャムオジは栗色の目に惹き込まれ続けていた。その瞳は雄弁な意思のみを声高に伝える人間のそれと、また石よりもきびしい沈黙に閉じたヌルゴラのそれと、どちらも兼ね備えたような瞳であった。そんな眼は見たことがなかった。その時、ジャムオジはようやく悟った。ヌルゴラの眼に宿るのは、死に裏打ちされた永遠であったのだ。そして人間の眼を支配するのは、火打にほとばしる火花のような、今この瞬間の生の色だ。とするならば、このものの眼は、永遠と今をたている。そのとき、ジャムオジを新しい感覚が突き上げた。涙でも悲しみでも怒りでもない。意思をもった熱が五体をかけめぐり、たまらずその両腕を掴み胸にすがり、そのまま哀願するかのようにひざまずくと、相手も腰を折り、それに従った。そしてジャムオジは夢中で、何ともつかぬそのものを犯しつづけた―。
夜空を眺めたジャムオジは、鳴り続けた笛の音が止んでいることにようやく気づき、身を起こす。そして眠るブンブクのため、先ほどの灌木へ向かい、再び皮をめくりにかかる。その間、呆然と座りつづけていたそのものも、戻ったジャムオジの両手に抱かれた皮くずを受け取り、岩陰の前、上手に隙間作って積み上げる。
ほの明かりに照らされたそのものは、たき火の向こうから、その丸く大きな眼でジャムオジを眺め続ける。
「ジャ、ム、オ、ジ」
自分の顔を指差しながらいうと、
「ジャ、ム、オジ」
利発らしくすぐ意を汲んで、今度はそのすべらかな自らの顔を指差しゆっくり口をあける。その時、栗色の瞳は激しく縮まり、口が再び閉じられた。振り返ると、そこにはバタンコの姿があった。
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